【記事の概要】
全世界6箇所、20万人もの従業員に息づくウォルト・ディズニー哲学
ディズニーランドでは、入社時のオリエンテーションで創業者のウォルト・ディズニーの哲学が、先輩キャストによって熱く語られます。この導入教育は、単なるマニュアルの暗記ではなく、ウォルトの生い立ちやパーク創造への情熱を共有することで、従業員一人ひとりの心に彼のビジョンを深く根付かせます。2.5万人もの従業員全員がウォルトの創業エピソードを語れるのは、この共感を伴う伝承によるものです。これにより、細かな指示やマニュアルに頼らずとも、キャストはウォルトの精神に基づいた判断基準を共有し、内発的な成長を促される巧妙な組織デザインが実現されています。
創業の哲学、心に刻むオリエンテーション
先輩キャストが語る、ウォルト・ディズニーの夢と情熱
ディズニーの入社初日に行われる導入教育「オリエンテーション」で、私たちはまず創業者ウォルト・ディズニーがどのような想いでディズニーランドを創ったのかを学びます。
驚くべきことに、このウォルトの想いを伝えてくれるのは、なんと、先輩のアルバイトキャストなんです。彼らは自身の経験を交えながら、ウォルトの生い立ちから創業の経緯をパネルやエピソードを使って熱く語ってくれます。
このオリエンテーションで最初に教わるのが『ディズニー・フィロソフィー』、直訳すると「ディズニーの哲学」です。
研修プログラムやパーク内のオペレーション、マネジメントの全てにこのフィロソフィーが宿っており、ウォルトの想いが私たち従業員の心の中に自然と根付くように、意図してデザインされていたんだな、と後になって深く認識できました。
マニュアルを超えた、現場での判断基準
全従業員に根付く「ディズニーの精神」
ここで一つ、面白いエピソードを紹介しましょう。
東京ディズニーランドはディズニー社の直営ではなく、パークを運営するオリエンタルランド社が運営する、いわばフランチャイズです。
そのため、ここで働く従業員は全員がオリエンタルランドの社員やアルバイトなんです。オリエンタルランド社にも立派な経営理念や創業の想いがあるはずですが、僕の時代は責任者になって初めて教わりました。
だから、皆さんがパークに遊びに行った時、キャストに「オリエンタルランドの経営理念って何?」と聞いてみてください。きっと、ディズニーの世界観を壊さないように、うまくごまかされるんじゃないかなと思います(笑)。実は、それは習っていないから分からないことなんですよ。
ですが、その後にこんな質問をしてみてください。「じゃあ、ディズニーランドって誰がどんな想いで創ったの?」。するとパークで働いているキャスト全員が、きっとこう答えるはずです。
ここはウォルト・ディズニーという人が創りました。
当時、ディズニーが娘を連れて遊園地に遊びに行った時の出来事です。
「どうして子供しか乗れないんだろう?大人も子供も一緒に乗れたら楽しいのに…。それに楽しい場所の遊園地なのに、なぜ汚いんだろうか…。ゴミ箱からゴミがあふれ、トイレは汚れっぱなし…。誰か創ったらいいのに…。そうだ、私が創ろう」
と。彼はそんな想いで創ったんです。
きっと、100%同じエピソードを得意げな顔をして話してくれるでしょう。これは決してマニュアルを暗記させたり、ペーパーテストで覚えさせることではないんです。
僕がすごいなと思うのは、2.5万人のキャスト全員が同じエピソードを語れるという点です。これは言い換えれば、2.5万人の従業員全員の心の中に、創業者であるウォルト・ディズニーが息づいているということなんです。
オリエンテーションで最初に習うのがこの創業者の想いであり、それを先輩キャストが同じエピソードで伝えてくれるからこそ、パークで働く全員が同じ物語を共有できるんです。
そして、このオリエンテーションでウォルト・ディズニーの伝道師である研修担当者や先輩の姿を見て、「あの人のようになりたい」と、その後の自己成長につながっていくんです。
会社から「あれをしなさい」「これをしなさい」と指示をされることは少なく、細かなマニュアルもありません。しかし、チャレンジする機会、気付く機会、成長する機会、そしてそれを認めてくれる機会は与えてくれるのです。
例えどんなに教えても、教えられる側の人がその気にならないと身に付かなくて成長にもつながらないものですから…。
これは、マニュアルを暗記させるのではなく、共感を伴う語りかけによって自然とウォルトのビジョンが従業員の心に宿るように意図された、巧妙なデザインと言えるでしょう。
マニュアルを超え、共感で承継する「ディズニーの精神」
ディズニーランドでは、入社時のオリエンテーションで創業者のウォルト・ディズニーの想いを先輩キャストが自らの経験を交えて熱く語ります。
このユニークな方法は、単なるマニュアルの暗記ではなく、ウォルトの哲学が従業員一人ひとりの心に深く根付くよう意図されています。
2.5万人ものキャスト全員がウォルトの創業時のエピソードを語れるのは、この共感を伴う語りかけによるものです。
細かな指示やマニュアルに頼らず、従業員が自ら考え、成長する機会を提供することで、ウォルトのビジョンがパーク全体に息づいています。
これは、従業員の内発的な成長を促し、組織全体の判断基準となる「ディズニーの精神」を醸成する巧妙なデザインと言えるでしょう。