[最新版]店長マニュアル 2.10のマネジメント知識 (2)現金管理

店長マニュアル 10のマネジメント知識 店長に必要な現金管理。現金管理の徹底は、不正やミスを防ぎ、売上3〜8%、利益3〜5%向上に貢献。誘惑を断ち切り、従業員が安心して働ける環境を整え、貴重な人材育成にもつながる現金管理と店舗経営

【記事の概要】
 現金管理の徹底は、不正やミスを防ぎ、売上3〜8%、利益3〜5%向上に貢献します。
 店舗経営の要は「人・モノ・金」の管理です。特に現金の管理は、利益確保、不正防止、企業イメージ維持に直結する重要事項。苦手意識のある現金管理ですが、本マニュアルでは「感情」と「正確性」を切り分けた教育を推奨します。厳格な現金管理は、誘惑を断ち切り、従業員が安心して働ける環境を整え、貴重な人材育成にもつながります。

この記事の目次

店長に必要なマネジメントと現金管理

店舗経営の要「人・モノ・金」のマネジメント

 店舗経営を成功させるには、人(人材育成)、モノ(商品・設備)、金(現金管理) のマネジメントが不可欠です。特に重要なのは、この3つの要素に取り組む順番です。

多くの店舗では現金管理が後回しにされがちですが、短期間で質の高い人材を育成するためには、「人・モノ・金」の順でマネジメントを徹底する ことが極めて重要になります。この順番で取り組むことで、人材育成の質を飛躍的に向上させることができます。

キーワードは「感情」と「正確性」

■店舗経営の要「人・モノ・金」のマネジメントを教える優先順位

優先順位1:「感情」がなく、「正確性」に多少の誤差が許容される「モノ」のマネジメントを最初に教えます(例:在庫管理、発注、棚卸など)。

優先順位2:「感情」はありませんが、「正確性」が求められる「金」のマネジメントを教え、段階的に責任範囲を広げ、精度を向上させます(例:レジ、小口現金、バックマネーなど)。

優先順位3:「感情」があり、自己コントロールと「正確性」が求められる「人」のマネジメントを最後に教えます(例:採用、人材育成、人事評価、人間関係など)。

これは、「感情」のない「モノ」や「金」の管理を正確にできない人が、「感情」のある「人」の管理をすることは難しいという考えに基づいています。

無理に教えると人的トラブルなどから成長阻害要因になる可能性もあるため、段階的な能力開発を通じて、即戦力化と効果的な人材育成を目指します。

この店長マニュアルでは、店鋪経営上、欠かせない現金管理や経営管理を先に構成しています。

現金管理の目的と重要性

売上利益と人を守る!不正を許さない店舗環境づくり

現金管理とは

 現金管理とは、店舗内のすべての現金(売上金、つり銭、小口現金はもちろんのこと、商品券やクーポン券などの金券も含む)を正確に処理し、企業の財産を保全することです。

これにより、最大限の利益確保と不正のない安全な労働環境を実現し、貴重な人材を育成します。特に無料券や割引クーポン券も現金と同様に扱う必要があります。レジの取り消しや返品・返金処理、店内の落とし物なども現金管理の範囲に含まれます。

現金管理の目的

 現金管理の目的は、不正やミスを予防し、企業の生命線である利益と人材を守ることです。もし内部不正が発生すれば、金銭的損失だけでなく、人的損失や店舗・企業イメージへの計り知れないダメージが生じます。だからこそ、徹底した現金管理が必要なのです。

現金管理の徹底で、売上約3~8%、利益約3~5%の確保が可能に

「うちの店に限って不正はない」と思われがちですが、人間は誘惑に弱い生き物です。例えば、誰もいない場所で財布が置いてあったら、「少しだけなら」と誘惑に駆られることがあります。

このような「魔が差す」危険な環境をなくすことが、大切な従業員を犯罪者にしないためにも重要です。

現金管理の徹底は、従業員間の不信感を解消し、安心して働ける職場環境を作り出します。現金事故によって人間関係が崩れ、有益で優秀な人材が離職するリスクも防ぐことができます。

現金管理の実施方法

「信頼するが、信用はしない」。「任せっぱなしにしない」。徹底した管理体制

 現金管理は、担当者や時間帯責任者が現金類をダブルカウントし、その後、責任者が担当者の立ち会いのもとでダブルチェックを行います。この際、証拠(エビデンス)と照合し、カウントミスや入力・計算ミスなどがないかを確認します。

月に一度は、スーパーバイザー(SV)による抜き打ちの現金監査を実施し、従業員に常に管理されているという意識を植え付け、不正の隙を与えないようにします。

現金管理の本質

 現金管理というと、帳票や管理工数を増やす傾向がありますが、重要なのは担当者や責任者の生産性向上です。業務遂行時に観察力や注意力、人への気配りに重点を置き、通常の業務範囲内で管理を行うことが必要です。

日報や損益計算書などの帳票から異常値に気づき、現場検証から原因を特定し、改善までを行うサイクルを繰り返すことで、経営者視点を養うことができます。

自動精算機や防犯カメラなどのハード面に頼る傾向もありますが、これらはあくまで人が予防し、安全な店舗環境があって初めて機能するものと考えることが必要です。

現金管理の精度向上

正確性を重視した現金管理の習得ステップ

「感情」を排し「正確性」を重視した金銭管理は、業務の精度向上に不可欠です。以下に示す順序で、金銭管理の基本を習得し、実践することで、業務効率と正確性を飛躍的に向上させることができます。

ステップ1. レジ(現金出納機)

最初に、店舗で最も頻繁に金銭のやり取りが行われるレジの正確な操作と点検方法を習得しましょう。レジは現金管理全体に大きな影響を与えるため、以下の点に注意して習得を進めてください。

  • 正確なレジ操作: お客様からの金銭授受、お釣りの渡し方、高額紙幣の取り扱い、取り消しや割引キーの操作、レジ開閉、売上金の中抜きや両替など、すべてのルールを徹底します。
  • レジ点検: 営業前後時、ピーク後、担当者交代時に、レジ記録と現金の照合を行います。また、クーポン券、割引や取り消し処理などの取引履歴、売上、客数、客単価、購入単価にも注意を払い、正確性を確認します。
  • レジ不正対策: レジの空打ち、スキャン飛ばし、バーコードの偽装・貼り替え、取引履歴の削除・返品処理、釣銭の不正などを予防するため、普段からレジ操作に気を配り、抜き打ちでレジ点検を実施します。

ステップ2. 小口現金

次に、日常的に発生する少額の支払いを管理する小口現金について学びます。小口現金は少額であるからこそ、管理が疎かになりがちですが、その正確な管理が全体の信頼性につながります。

  • 出納の記録: 飲食代、交通費、事務用品購入費、仮払金など、小口現金の全ての出入りを、日付、金額、使途を明確にして正確に記録します。
  • 残高の確認: 定期的に実際の現金残高と帳簿上の残高を照合し、不一致がないかを確認します。
  • 領収書の管理: 全ての支払いに対して領収書を確実に取得し、整理して保管します。これにより、使途の透明性を確保し、監査にも対応できます。

ステップ3. バックマネー(金庫)

最後に、事業運営において最も重要な現金を保管するバックマネーの管理方法を習得します。金庫内の現金は事業の運転資金であり、その管理には細心の注意が必要です。

  • 入出金の厳格な管理: 金庫からの現金の出し入れは、必ず複数人での確認や、上長の承認を得るなど、厳格な手順を踏んで行います。
  • 定期的な残高確認: 毎日、または特定のタイミングで金庫内の現金残高と帳簿上の残高を照合し、誤差がないことを確認します。
  • セキュリティ対策: 金庫の鍵や暗証番号の管理、防犯カメラの設置、アクセス制限など、盗難や紛失を防ぐためのセキュリティ対策を徹底します。

これらの金銭管理を正確に行うことで、あなたの仕事の精度は格段に向上し、店舗経営の信頼性にも貢献できるでしょう。

現金管理における重要なチェックポイント

常に意識すべき現金の取り扱いと店舗環境

 現金を触る頻度が高く、取り扱い金額の多いレジ現金や事務所の金庫のチェックを優先して行います。各レジ担当者のオペレーションについて、手順、基準、ルールの徹底状態を、五感を使い確認しましょう。

高額紙幣の取り扱い、内引き、詐欺、強盗対策にも注意を払う必要があります。レジ担当者とお客様の会話内容にも耳を傾けることで、サービスレベルの向上や不正予防にもつながります。

その他、レジの誤登録(取り消し件数や金額)、返品・返金処理、帳票の記入漏れやミスなどに異常がないかを確認します。

事務所では、金庫内の現金やクーポン券の残高、管理状態もチェックします。銀行入金用の売上金を何日も金庫に放置していないか、必要以上のつり銭準備金を保管していないかなども確認が必要です。クーポン券を金庫で保管していない店舗もあるので注意しましょう。

現金事故のない安全な労働環境づくりのために

 レジ現金の確認は、定時や担当者交代時のチェック、売上金の中抜き、残高確認だけでなく、抜き打ちチェックも不可欠です。

また、紙幣の向きを揃えるといった、一見すると面倒に思えることまで徹底することで、現金一枚一枚にまで注意を払っている姿勢を示すことが重要です。

レジで生じた現金差は、プラスやマイナスの合計ではなく、絶対値の合計と件数、平均値で把握しましょう。帳票への記入やルールの徹底、差額現金の金庫保管などもチェックが必要です。

レジ横の募金箱や店の貯金箱で現金の出し入れをすることは絶対に避けてください。また、マイナスの現金差だけでなく、プラスの現金差にも危険が潜んでいる場合があります。

常に現金の取り扱いに気を配っている姿勢を見せ、注意喚起することで、不正の隙を与えないようにしましょう。

チェックは、単にチェックリストをこなすだけでなく、スタッフの良い点を褒め、問題点があれば改善点を伝える機会と捉えることが大切です。

粗探しではなく、あくまで仕事ぶりの観察、管理、監督を通じて不正の隙を与えないことが目的であることを忘れないでください。そうしないとスタッフとの人間関係が崩れ、かえって不正が横行する可能性もあります。

現金管理のチェックポイント

 このチェックポイントは、店舗の現金管理を強化し、利益確保と従業員の安全な労働環境を実現するために不可欠です。不正防止から日々の運用、さらには人材育成まで、以下の項目で現金管理体制をさらに強固なものにしていきましょう。

不正防止:店舗内のすべての現金(売上金、つり銭、小口現金、商品券、クーポン券など)を正確に処理し、企業の財産を保全することで、最大限の利益確保と不正のない安全な労働環境を実現し、貴重な人材を育成していますか?

管理体制:担当者や時間帯責任者が現金をダブルカウントし、その後、責任者が担当者の立ち会いのもとでダブルチェックを行うなど、「信頼するが、信用はしない」という考えに基づいた徹底した管理体制を構築していますか?

定期監査:SVによる月1回の抜き打ち現金監査を実施し、従業員に常に管理されているという意識を植え付け、不正の隙を与えないようにしていますか?

経営者視点:日報や損益計算書などの帳票から異常値に気づき、現場検証から原因を特定し、改善までを行うサイクルを繰り返すことで、経営者視点を養っていますか?

レジ管理:レジの正確な操作や必要な点検から、高額紙幣の取り扱い、レジドロワーの管理、レジ記録と現金の照合、取引履歴、帳票の記入漏れやミスなど、異常がないかを確認していますか?

小口現金管理:日常的に発生する少額の支払いを管理する小口現金出納の正確な記録、使途や金額のチェック、残高の確認、領収書の管理を徹底していますか?

金庫管理:事業運営において最も重要な現金を保管するバックマネー(金庫)の入出金を厳格に管理し、定期的な残高確認、セキュリティ対策を徹底していますか?

環境整備:従業員が安心して働ける職場環境作りのために、現金事故のないように誘惑を排除し、従業員間の不信感を解消するような取り組みを行っていますか?

現金差の把握:レジで生じた現金差を、プラスやマイナスの合計だけでなく、絶対値の合計と件数、平均値で把握し、原因究明と処理を適切に行っていますか?

従業員への配慮:チェックは単にチェックリストをこなすだけでなく、スタッフの良い点を褒め、問題点があれば改善点を伝える機会と捉えて、人間関係を良好に保ちながら管理・監督を行っていますか?

現金不正の事例に学ぶ

繁忙期の盲点!見逃された不正の手口

 ある小売の繁盛店で、数万円の高額な現金差異が発生しました。

その原因究明のため担当SVが店舗を訪れ、昼の混雑時、店内を観察すると、一人のレジ担当者が基準外のオペレーションをしているのを発見しました。

なんと、レジのドロワーは開けっ放しで、受け取った紙幣や小銭がぐちゃぐちゃに入れられて、お客様の会計を続けていたのです。

このレジ担当者は入社6ヶ月のパートアルバイトで、ピークタイムのレジ操作でパニックになっている様子はありませんでした。店側も何度か注意していましたが、改善は見られないとのことです。

後日、お客様のふりをしてレジ近くで様子をうかがっていたところ、「お釣りを貰いにきた!?」という不審な会話が聞こえました。状況から店の関係者ではないと判断できたので、会計後すぐに確認したところ現金差異があり、不正を認めました。

その手口は、忙しい時間帯に友人と共謀し、つり銭の紙幣の中に1万円を紛れ込ませて渡すというものでした。ドロワーが乱雑だったのは、不正の瞬間を狙っていたためです。

いくつかのルールを遵守しなかったために発生したこの事例は、オーナーが高い代償を支払うことになりました。この経験は、ぜひ今後のトレーニングに役立ててください。

まとめ:店長の現金管理

店舗の人材と利益を守るための現金管理の徹底

 現金管理は、店舗経営における「人・モノ・金」のマネジメントの要であり、企業の利益確保と人材育成に直結する非常に重要な業務です。単に現金を数えるだけでなく、不正やミスを未然に防ぎ、従業員が安心して働ける環境を整備することが目的です。そのためには、「感情」と「正確性」を軸に、「モノ」→「金」→「人」の順で段階的に管理能力を育成することが効果的です。

具体的には、日々最も金銭が動くレジの正確な操作、少額ながら見過ごされがちな小口現金の厳密な管理、そして事業運営の根幹をなす金庫内の現金(バックマネー)の厳重な管理が求められます。

これらの金銭管理を徹底することで、業務の精度が向上し、企業全体の信頼性が高まります。また、定期的なダブルチェックや抜き打ち監査、異常値の早期発見と改善サイクルの確立も不可欠です。

現金事故は大きな損失を招くだけでなく、従業員間の不信感や離職にもつながるため、誘惑を与えない環境作りが重要です。

本マニュアルを通じて、現金管理の重要性を再認識し、実務に活かしてください。

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