顧客を「真ん中」に置く巨大企業の戦略
アマゾン、20年で小売業トップ3へ:驚異的な成長の軌跡
2000年11月に日本でEC事業を開始したインターネット通販の巨人、Amazon。その勢いは衰えることなく売上高を伸ばし続け、わずか20年で日本の小売業売上高ランキングのトップ3に食い込むまでに成長しました。
コロナ禍で多くの企業の業績が低迷する中、アマゾンは著しい成長を見せています。年度別の売上高と成長率は以下の通り、コロナ禍以降もその勢いを加速させています。
■アマゾン日本事業の売上高
2020年度: 2兆1893億円
2021年度: 2兆5378億円
2022年度: 3兆6000億円
2023年度: 3兆6403億円
2024年度: 4兆1375億円
この驚異的な成長を支える原動力は何なのでしょうか。
アマゾンの顧客第一主義の本質:顧客体験価値を高めるための基本戦略
アマゾンの目覚ましい躍進を支える原動力、それは顧客体験価値を向上させるための三つの基本戦略にあります。
■アマゾンの三つの基本戦略
①常に顧客中心に考える
②発明を続ける
③長期的な視野で考える
これらの基本戦略の根幹にあるのが、1995年の創業以来掲げられている「顧客第一主義」です。インターネット専門の書店としてアメリカで誕生したアマゾンは、「地球上で最もお客様を大切にする企業になる」という壮大な理念を追求し続けてきました。
創業者のジェフ・ベゾスは、そのビジネスモデルの中核を一枚のナプキンに描きました。それが、顧客を中心に据えた「善の循環」というコンセプトです(下図)。

品揃え(セレクション)の拡充は、顧客体験価値(カスタマーエクスペリエンス)の向上に直結します。顧客体験価値とは、単に商品の品質や機能が高いだけでなく、使いやすさ、楽しさ、分かりやすさなど、商品やサービスを通じて得られるあらゆる経験の総称であり、それを使うことによる喜びがあってこそ生まれるものです。
向上した顧客体験価値は顧客数(トラフィック)の増加を招き、その結果として出品者(セラー)が増加し、さらなる品揃えの豊富さへと繋がります。
この循環を支えるのが低コスト構造(ロワーコストストラクチャー)です。効率的な運営によって実現される低コスト構造は低価格(ロワープライス)を生み出し、再び顧客を惹きつけるという好循環を形成しているのです。
アマゾンの顧客第一主義の本質とは、低価格、利便性、そして迅速性の三つを追求することです。
しかし顧客が真に求めているものは、本当にこの三つに尽きるのでしょうか。
アマゾンと直接競合せずとも、顧客の潜在的なニーズに応え、喜んでいただける事業領域は、他のニーズの中にこそ存在するのではないでしょうか。
顧客第一主義の本質を探究する
アマゾンは「顧客視点の発明」を続ける:「店は客のためにある」の真髄
昭和の石田梅岩とも称された経営指導者であり、商業界の創立者である倉本長治は、太平洋戦争後の混乱期において既に顧客第一主義の重要性を強く訴えていました。
彼の教えを受けた多くの日本の商人がその実現に尽力してきた歴史があります。しかし現代では、誰もが顧客第一主義を掲げる一方で、その言葉だけが先行し実態が伴わないケースも少なくありません。
この状況に対し、アマゾンの創業者ジェフ・ベゾスは、かつて「多くの企業は顧客第一主義を唱えながらも、実際には競合他社の動向を注視し戦略を決定している。それでは真の革新は生まれない」と指摘しています。
豊富な品揃え、利便性、低価格という点でアマゾンは常に顧客の視点に立ち、革新的なサービスを生み出し続けています。そしてその視点は短期的な利益にとらわれず、長期的な顧客満足の追求に向けられています。
単にアマゾンと同様の商品を販売するだけではその革新の波に乗り遅れ、競争において劣勢となることは避けられないでしょう。
このようにアマゾンは「顧客視点の発明」を軸として、顧客体験と満足度の向上を追求し、絶えず革新と進化を実現しています。
ではアマゾンさえあれば私たちの暮らしは豊かになるのでしょうか。
決してそうではありません。人の生活はそれほど単純なものではないからです。
アマゾンが手がけられない、あなたならではの顧客第一主義を追求できるのは、以下の三つの要素が重なり合う領域です。
①あなたがやれること
②あなたがやりたいこと
③あなたがやるべきこと
またアマゾンといえども全てのニーズに応えるわけではありません。そしてあなたが追求すべき顧客第一主義は、画一的なものではなく、より深く多様な可能性を秘めているのです。
「店は客のためにある」という言葉の真髄はさらに奥深く、多様な視点から捉えることができるのです。